絵本の翻訳本を出すには、版元や著者から権利を取得する必要があり、実現までにいくつかの工程があります。ご自身で行うことも可能ですが、翻訳出版についてノウハウのある出版社のサポートを受けることをおすすめします。本記事では絵本の翻訳出版を実現するまでの流れや費用、注意点についてまで詳しく紹介します。

出版までの流れ(翻訳絵本の場合)

絵本を翻訳して出版する流れは、基本的に他の翻訳本の場合と同様です。絵本翻訳を出版するまでの流れを以下にまとめました。

  1. 出版社と打ち合わせ
  2. 原作の版元、著者の確認
  3. 原作の版元、著者との契約交渉
  4. 出版条件、費用の確認
  5. 翻訳出版権の契約
  6. 翻訳作業
  7. 編集、組版
  8. 装丁デザイン
  9. 印刷、製本
  10. 完成品の納品、取次店へ搬入
  11. 発売
  12. 売上集計、原作版元への報告

1.出版社と打ち合わせ

まずは絵本の翻訳をサポートしてくれる出版社との打ち合わせです。どのような絵本を翻訳したいのか、話し合いを行います。また、実際に絵本を出版することになった場合の契約内容についての詳細も決めておくことが大切です。
(ここでの契約内容とは、翻訳をサポートする出版社と翻訳者との契約事項についてです。)

2.原作の版元、著者の確認

次に原作の版元、著者の確認を行い、翻訳出版ができるように権利の取得を目指します。
契約交渉は現地の出版社、著者と交渉するエージェントを挟むことが一般的です。エージェントは日本国内の主要数社と出版社がすでに繋がっているケースが大半です。

3.原作の版元、著者との契約交渉

原作の版元、著者と出版条件や費用について契約交渉をして、内容に合意を得られれば契約、翻訳出版権を取得します。

4.出版条件、費用の確認

判サイズ、用紙、部数、印税等を調整の上、最終見積もりを確定させます。
サポート費用の総額、原作著者等へ支払う総額を最終確認しましょう。

5.翻訳出版権の契約

翻訳出版権の取得に関わる契約を締結します。通常は原作の版元(出版社)と翻訳する出版社の間での契約をエージェントが取りまとめます。

6.翻訳作業

契約を締結した後は実際に絵本の翻訳作業に取り掛かりましょう。翻訳をする際には、原作の内容を正確に翻訳することが大切であり、誤訳や内容の改変などを行ってはいけません。原作著者のチェックが入り場合と入らない場合があります。チェックのタイミングも様々で、イラストに翻訳した日本語を乗せた段階でチェックとなる場合もあれば、装丁等のデザイン含めて全て完成したタイミングでチェックとなる場合もあります。

7.編集、組版 8.装丁デザイン

翻訳作業を終えた後は、出版社側で編集や組版、装丁デザインといった作業を進めます。
印刷用の本文データの作成と、表紙などのデザインです。

9.印刷、製本

校了した後は、版元や著者に確認してもらうケースがあります。問題がなければ、そのまま印刷・製本が行われます。一般的な書籍と比較し、ハードカバーを採用することが多い絵本は、製本の制作期間がやや長くなります。(表紙をくるむ作業などが発生し、工程そのものが長くなるためです。)

10.完成品の納品、取次店へ搬入 11.発売

製本が済むと、取次店へ搬入され、その後書店に流通し、店頭で販売されるという流れです。翻訳者の手元に完成品が送られる時期は、相当に発売までのスケジュールがタイトでない限り、発売日の2週間程度前に届くでしょう。

12.売上集計、原作版元への報告

翻訳された絵本が発売された後は売上を集計して原作版元に対して報告しなければいけません。また、契約した内容に従って著作物利用料などの支払いを行います。原作版元や著者、エージェント、出版社に支払われた費用を差し引いた残りが翻訳者の取り分です。

翻訳出版権の取得にかかる費用

絵本の翻訳出版をするためには、版元から翻訳出版権を取得する必要があります。権利を取得するのにかかる費用は原書によりさまざまです。版元や著者が自由に設定できるものであり、安価に進められるケースもあれば、かなり高額な費用が設定される場合もあります。

翻訳出版権を取得するためにかかる費用の相場は20万~30万円程度です。海外でベストセラーになっていて、とても売れた本の場合は翻訳出版権は数百万円以上と高額になるケースがあります。

また、部数(売上)に対して4~9%ほどの著作物利用料も発生します。著作物利用料は刷り部数計算と実売計算の2種類の方法があり、実売計算の方が率は高くなりやすいです。

著作物利用料については初版を印刷する時点で一定金額を前払いするケースがあります。数千部相当の印税を前払いする仕組みです。ただし、前払いの仕組みを採用していないケースもあります。

翻訳出版権を取得するのに利用したエージェントに支払う費用の相場は安い場合で5万~10万円程度です。出版社から手数料を請求されるケースがあり、その場合には数十万円程度の費用がかかる場合があります。

絵本の制作、印刷製本にかかる費用

絵本の翻訳本を出版したいならば、実際に絵本を制作して印刷製本しなければいけません。

絵本を印刷製本するまでにかかる費用は、さまざまな条件によって大きく異なるものです。目安としては、16ページの絵本をオフセット印刷する場合に100部の場合は30万円程度、1,000部の場合は70万円程度の費用がかかります。

出版社にサポートを受けながら絵本の翻訳を自費出版する際にかかる費用の内訳は以下の通りです。

  • 印刷費
  • 流通費
  • 保管料
  • デザイン料
  • 販売管理費

印刷費用は本を印刷するのにかかる費用であり、本のサイズやページ数、色、用紙の種類などにより変わります。

流通費とは書店に流通させるためにかかる費用のことです。実際に流通させる本とは別に、在庫として本を抱えるケースがあり、その場合には保管料が発生します。

文やイラストなどをレイアウトする費用がデザイン料です。日本国内で流通させるための奥付やJANコード取得等が含まれます。

販売管理費用とは、本の売上や在庫の状況を管理するのにかかる費用のことです。

出版社を利用して絵本の翻訳出版をする際には以上の費用がまとめて見積もられます。出版社と契約をする前にどのくらいの費用がかかるのか、内訳も含めて確認しておくことが大切です。(絵本の翻訳においては、一部分だけの作業を請け負う出版社は少ないです。出版権の設定と販売後の管理までがセットである必要があるためです。)

絵本を翻訳出版する際の注意点

絵本の翻訳出版をする際には、原作著者との間に多くの会社や人が挟まった状態で企画を進めていくことになります。基本的に原作の著者と直接コミュニケーションは取れないことを前提に作業を完遂させることになると理解しましょう。

原作著者の中には、それぞれの国ごとに合わせて絵を少し手直したいという要望を出すケースがあります。文化に合わせて色味を変えるなど変更を加えたいと考える場合があるからです。そのため、原作著者の意向によっては、絵の手直しに伴うスケジュール遅延を考慮しましょう。

翻訳出版するには翻訳権の契約に特に時間がかかり、実際に契約が締結されるまでに半年から1年程度かかるケースがあります。版元やエージェントを介して間接的にやり取りをすることになるため、簡単な意見の交換だけでも時間がかかるからです。契約内容について交渉する際にお互いの条件が合わずに話が前に進まなくなるケースもあります。長い時間をかけて交渉をしたけれども、最終的に交渉が決裂するケースもあるため注意しましょう。

また、翻訳権を取得できたからといっても、必ず絵本の翻訳出版が成功するとは限りません。実際に翻訳をする段階でさまざまな問題が生じるケースがあるからです。たとえば、原作の絵本の良さを上手く翻訳できずに、商品化できるレベルに仕上げられない場合があります。完成した翻訳原稿について著者からチェックを受けて問題点を指摘される場合もあるでしょう。翻訳の質に注意を払い、なおかつ著者の要望を満たすことも意識する必要があります。

翻訳作業や翻訳物の質に不安がある場合には、出版社に相談し翻訳会社のチェックを頼むことが可能です。たとえば、完成した翻訳物を第三者のプロである翻訳会社にチェックしてもらうことで、さまざまな指摘を受けられます。指摘を受けた点を修正することで、翻訳物としての質を高められるでしょう。

出版された翻訳物については、版元や著者の意向によって販売が中止になるケースもあります。翻訳物の販売を続けるかどうか決める権利はあくまでも版元や著者にあるため注意しましょう。