正味とは出版業界で用いられる用語の1つです。定価を基準とした卸率のことであり、出版業界の場合は出版社と取次、書店間で取引があるため重要になります。本記事では出版業界における正味の意味や種類、基準などについて解説します。
正味とは
正味とは書籍を仕入れる際の卸価格のことです。取次店や書店にとっては、仕入れ時の書籍の価格が正味です。読み方は「しょうみ」です。
一般的な商品の場合は、仕入れ価格をもとにして販売価格が決められるものです。しかし、出版物の場合は、小売価格は出版社が決めます。そのため、出版社と取次、書店間の取引について、卸価格は書籍の定価に対するパーセンテージで表示するのが一般的です。たとえば、定価1,000円の本を8掛(定価×80%)で売る場合は、正味は800円です。
この掛け率を正味と呼ぶケースもあります。
正味は定価を基準に計算します。出版社から取次に対して正味7掛で卸す場合は、定価1,000円の場合には700円で取次に販売すると考えましょう。
正味の種類
正味を大きく分けると出版社から取次へ卸す際の正味と、取次から小売書店に卸す正味の2種類があります。出版社が取次に卸す正味は「版元出し正味」とも呼ばれます。
取次から小売書店に卸す正味は「出し正味」と呼びます。出版業界では上記2つの正味が存在すると考えましょう。
正味の基準はどれくらい?
出版社の版元出し正味は定価の68~75%が中心です。(ただし、文庫本など一部の例外やAmazonのe託などで60%台前半の正味となるものもあります。)
そして、取次は出版社の正味に対して8~10%のマージンを乗せ、書店に卸すケースが多いです。したがって、書店が受け取る利幅は定価の22%程度になります。
本が売れた場合は、取次の取分が約8%、書店は約22%、残りが出版社の取分です。本の売上の半分以上が出版社の取分になります。ただし、出版社の取分がそのまま出版社の利益になるわけではありません。出版社は本を出すためにさまざまなコストを負担しているからです。
また、上記のマージンはあくまでも出版業界における平均的な数字であり、実際にはそれぞれの出版社が独自のマージンを設定できます。たとえば、2019年に幻戯書房は取次や書店への卸値を定価の60%にすると宣言しました。卸値を大幅に引き下げることで取次と書店の利益は増えて、出版社の利益は減ります。幻戯書房は書店や取次の現状に不安を抱いており、このままでは出版業界が崩壊することを危惧して卸値の引き下げを決断しました。
アマゾンでは正味が60~65%に設定されていて、出版社から取次への卸値より安くなっています。(注意:全ての出版社が一律の正味設定ではないです。)そのため、Amazonに本を卸す場合は取次に卸すよりも利益は減ります。Amazonは出版社と買い切りで直接取引をするケースもあります。
現在、書店へ行かずにAmazonで新刊を注文して購入する人が増えているため、Amazonは正味について強気な設定が可能です。
出版社と取次の正味については、それぞれの力関係で変わるとされています。また、一般書と専門書、雑誌でそれぞれ正味に違いがあります。基本的に一般書よりも専門書の方が正味は高いです。また、一般書や専門書よりも雑誌の方が正味は低いです。
正味は出版社と取次、書店のそれぞれの利益に大きく影響します。今後は正味の基準が変わっていく可能性があるでしょう。書店が相次いで閉店しており、取次や出版社も経営危機に陥っているからです。
まとめ
出版業界における正味とは、卸値を示したものです。正味を理解することで、出版業界で本が売れたときの取分がわかります。今後も正味は出版業界の将来にとって重要な意味を持つため、注目してみましょう。