出版業界の闇と言われる旧態依然の慣習について当記事では取り上げたいと思います。
決して古い構造や習慣を壊そう!と宣言したい意図の記事ではない点、ご留意ください。
出版業界は、市場縮小に起因し闇深い
出版業界の市場規模(書籍や雑誌の売上)は、右肩下がりの状況が20年以上続いています。特に雑誌、書籍の下落は顕著で、以前「出版業界の市場規模はどれくらい?2022年上半期の推定販売金額」でも触れたとおりの状況です。
紙やインク、物流コストが上昇する中、書籍の販売金額は下がっていく訳ですから、関係者の取り分は市場規模の減少以上に早く小さくなっていきます。
雑誌の廃刊、書店の閉店、出版社の倒産は、これらを原因にした結果であると言えるでしょう。
お金が回らない市場であるため、著者、出版社やそこで働く人、取次や書店に少しずつでも継続的にダメージが与えられている状態です。
著者は儲からない仕事に。闇と言われる報酬体系
著者の受け取る報酬は、印税と呼ばれる著作物使用料が大半です。細かな計算方法は出版社により異なりますが、大雑把に言えば、売上の数%~10%ほどが著者が受け取る印税です。前述の通り、市場そのものが小さくなっているため、一部のメガヒット作を除き印税額も少額になる傾向でしょう。
印税の率が低いことを闇と表現されるケースもありますが、これは出版業のビジネス構造を見れば分かる通り、出版社に問題がある訳ではなく、出版というビジネス構造そのものに問題があると言えます。
(何が言いたいかと言えば、著者、出版社、取次、書店の登場人物すべてが儲かっていない状況で、関係者間での言い合いは本質ではないと思います。)
電子書籍の印税
電子書籍の印税についても、ここで取り上げたいと思います。
電子書籍の販売は、著者・出版社・配信プラットフォームの3者が登場人物です。配信プラットフォームは、Amazon Kindleや楽天kobo、コミックシーモア、DMMブックス等が代表例です。
電子書籍は取次を挟まないし、印刷や配送のコストもかからない、在庫切れも返本もないわけだから、印税率は高くあるべきとのお話でしょう。
(電子書籍取次という仕組みもありますが、ここでは割愛しお話を進めます。)
電子書籍の印税は、紙の印税よりも高く設定すべき点はその通りだと思います。
では、お金の流れの全体像を掴みましょう。
正直なところかなり出版社の規模による部分で数字が変わるため、中小中堅の出版社を例にした、よくありそうなケースとして進めます。
- 配信プラットフォームの取り分:50%~75%
- 出版社の取り分:5%~40%
- 著者の取り分:10%~20%
上記の数字について補足説明をします。
配信プラットフォームにより配信料(プラットフォームの取り分)はバラバラです。Amazon Kindleの独占販売時30%(Amazonから出版社に70%支払われる)を取り上げて、著者の取り分が少ないことを語られるケースがありますが、これは本質ではありません。ビジネス書などで本当にAmazonのみで販売するケースでは、Amazonに支払う配信コストと紙の書籍が売れにくくなる点を考慮しても、当然高い印税率を設定すべきです。
(配信コストが数円~十数円程度、配信料に加えて徴収されます。配信料を30%に抑えたい場合、紙の書籍よりも2割以上電子書籍を安価な価格に設定するルールがあるため、紙の書籍が動きにくくなります。想定よりも紙の書籍が動かない場合、在庫を抱えることになりますから、必要なリスクに対する手当をする必要があると言えるでしょう。)
漫画や小説など、Amazon以外のプラットフォームを活用することが望ましいケースでは、配信料で75%ほど取られるケースもあります。
これを取りすぎだと考えるかは視点によると思います。
プラットフォームは新たな読者を獲得するための宣伝や、無料でポイントを付与するなどの施策にコストを使っています。週刊誌等の購読者が指名買いしにくるのであれば、高いと取れるでしょうし、接点のなかった新しい読者を取り込めたケースにおいては、適切だと取れるでしょう。
出版社が取りすぎか適正かは、どのように考えるべきでしょうか。
上記の通り、配信プラットフォームにより率がバラバラです。伴って、多く配信料(手数料)を取るプラットフォーム上で多く売れた場合、反対に配信料が安いプラットフォームで多く売れた場合とで払える原資が変わります。
配信先が多いと、配信料の高いプラットフォームの売上比率が高いケースを想定して率を設定する必要があります。配信先が少なければ、実際の率予測がしやすいため、現実的な率設定ができるでしょう。
その他に、紙の書籍が同時に販売されるか、編集スタッフの作業量が多いか少ないか(プラットフォーム数により、準備すべきファイルフォーマットの違いなども)、各プラットフォーム上で広告やキャンペーン等を展開するかを加味すると良いでしょう。
(その他にも、コミック等で人気が出るまでの広告費をどこで回収するかという考え方の問題もあろうかと思います。話の分岐が過ぎるので、この話は割愛します。)
出版社で働く。労働環境の闇
会社により違いがあるため、一律に労働環境が悪いわけではありませんが、長時間労働や強いストレスがかかる点から「闇」と表現される職場もあります。
出版社の編集者は多くの場合、年間の刊行スケジュールや冊数の目標(ノルマ)を持ちます。企画を練り、著者を探し、原稿を仕上げ、本文レイアウトや表紙デザインの進行管理、営業への連携を担います。
編集者の仕事の特徴として、連携する人物や業者が多く、連携先(依頼先)の仕事スピード次第で、他の工程スケジュールに調整が必要となる点です。
著者からの入稿が遅れると、編集者の仕事はタイトなスケジュールになりますし、校正での修正漏れが何度も入れば、印刷所への入稿直前は遅くまでの残業になるでしょう。
このように、本人だけではコントロールしきれない点で待ちが発生したり、締め切り直前の残業が発生する構造が闇を作り出していると言えるでしょう。
取次店に依存する出版会社の闇深さ
多くの方がご存じの通り、取次店は出版社と書店を繋ぐハブの役割を果たします。これは書籍(商品)の流通だけでなく、お金のハブにもなる存在です。
書店は委託で仕入れるため、仕入れ時には支払いをしません。(委託期間が経過した後、返本しない分、つまり売れた分に対して仕入れ代金を支払います。)出版社は新刊を取次店に納本し、一定期間が経過した時点で売上相当額を事前に受け取ります。
つまり、書籍の売上金が取次店に入ってくる前段階で(場合により一部入っており)出版社に売り上げを立て替えて支払うファイナンス機能を持っています。
この状況のどこに問題があるかと言えば、出版社は出版することで取次からお金が入り、後日返本の量に応じて、返金をする必要があります。出版社にキャッシュが残っていればいいですが、資金繰りが苦しい出版社の場合、次の出版をし売上を前受けし、そこから支払いをする(相殺する)循環になります。いわゆる自転車操業状態です。出版社は書籍を出し続けることで存続し、止めるとキャッシュが枯渇します。
(取次店が出版からどの程度の期間経過後、出版社に支払うかは各社条件がバラバラです。当然ですが、収支もキャッシュフローもプラスで回っている出版社も多数あり、全てがすべてここで紹介した状況ではありません。)
書店は儲からない闇
ここ20年で書店数は約半減となりました。いくつかの原因があるとされていますが、一つは雑誌売り上げの減少、一つは書籍販売の利益率が22%程度と小売りの中でも低いこと、最後にパターン配本の精度に起因するものと言われています。
WEBメディアの台頭もあり、雑誌の休刊、廃刊は止まりません。複合店化した大型書店が集客を強化する中、小売業の利益率は平均26~27%程度ですから、小規模な書店は厳しい状況です。雑誌の定期改正で希望数が配本されないケースや、パターン配本では売れ筋商品に欠品が出るなどの課題があるとされています。
「闇」は深くない
出版業界の闇と題して、やや大げさにご紹介してきました。当サイトの意見としては、インターネットの登場により、出版業界にも大きな変化が起きており、その過程で「儲からない」「課題が山積」「文化か商売か」といった悩みが生まれているものだと考えています。
誰が悪いといったことではなく、変化に応じて各社が努力を続けていくことが大切との考えです。