近年、出版業界でM&Aが実施されるケースが増えています。それでは、なぜM&Aが必要とされるのでしょうか。M&Aを行うメリットや出版業界におけるM&A事情について説明します。
M&Aとは
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略であり、企業の合併や買収のことです。M&Aは譲渡企業と譲受企業がやり取りをします。譲渡企業が譲受企業に対して株式や事業などを譲渡することで、企業の合併や買収が成立します。M&Aは譲渡企業と譲受企業のそれぞれにメリットがあります。ただし、M&Aに失敗するケースもあるため、慎重に検討することが重要です。
M&Aが必要とされる理由
出版業界の市場規模は右肩下がりの状況が続いており、特に中小企業は苦境に立たされています。経営的に苦しい状況にある中小企業が再建を図るために合併を検討するケースがあります。そのため、出版業界の主に中小~中堅企業が売り手側としてM&Aが行われています。
M&Aによるメリット
出版業界においてM&Aを行うメリットを買い手側と売り手側それぞれについて解説します。
買い手側のメリット
M&Aを行うことで買い手側は新しいジャンルへの展開が容易になります。出版業界の中小企業は得意とするジャンル(テーマ)に特化した事業展開をしているケースが多いです。そのため、他社を買収することでジャンルを広げることができます。
たとえば、書籍中心の出版社がファッション雑誌の発行会社を買収するといったケースです。他にも出版業以外の企業が、メディアを持つ目的では、M&Aが有効な戦略となります。(特に雑誌コードを持たない企業が雑誌出版社を買収するメリットは非常に高いです。雑誌コード取得に関する話は、別記事 雑誌コードとは?見方や分類について紹介 が詳しいです。)
売り手側のメリット
売り手側にとっては、M&Aによって自社の事業を存続させられる点がメリットです。たとえば、大手企業に買収されることで、大手企業の資金力や知名度を利用できます。買収された結果として、企業経営が安定して、事業に注力できるようになるのです。
特に中小企業の場合は、専門性に特化した独自性のある事業を展開していても、経営が苦しい状況になるケースは珍しくありません。そういった中小企業が買収されて大企業の傘下に入った結果として、業績を伸ばしたというケースは多いです。
と、ここまでは一般論ですが、出版社の創業オーナーが引退の年齢になっており、取引先や従業員のことを考え、綺麗に引き継げることが最大のメリットではないでしょうか。
特に借り入れがあり、スケジュール通りに新刊を出さないことには資金繰りが厳しいケースでは、従業員に引き継がせることも難しく、M&Aがマッチするものだと思います。
出版業界におけるM&A事例
出版業界ではこれまでにいくつもの企業がM&Aに取り組んできました。M&Aの具体的な事例を以下にまとめます。
- 株式会社KADOKAWAによる株式会社ドワンゴの子会社化
- 図書印刷株式会社による株式会社桐原書店の子会社化
- 数研出版株式会社が学校図書株式会社を子会社化
2019年4月にKADOKAWAはドワンゴを子会社化しました。ニコニコ動画などWeb関連事業を手掛けるドワンゴを買収したことで、KADOKAWAはドワンゴのコンテンツやプラットフォームとの融合を図り、事業拡大を目指しています。
2017年11月に図書印刷株式会社は、株式会社桐原書店を子会社化しました。両者ともに教育事業を展開しているため、相乗効果が見込めるM&Aです。
(図書印刷が小中学校向け、桐原書店が高校向けの教材を作っています。51%取得が約11億円と中々規模の大きな買収でした。)
2021年8月に数研出版が学校図書を子会社化しました。どちらも教科書や教材の出版を行っており、数研出版はさらなる事業基盤の拡大のためにM&Aを行っています。
割と収益が安定する教科書の出版ですが、ご存じの通り少子高齢化で先行きは不透明です。また学習アプリの台頭もあり、デジタル化ニーズが強く、ある程度の規模感でないとデジタル化投資の難しさも背景にあるのでしょう。
出版業界の将来性
たとえM&Aを図ったとしても、出版業界そのものは将来性に陰りがあります。活字離れが進んでおり、読書人口は減っていて、本の売れ行きは悪くなっています。電子コミックの売上が伸びたことで電子書籍の市場規模は成長していますが、紙の書籍や雑誌の売れ行きはあまり良くありません。
出版社を買収し、ただ事業を継続させ、収益を上げていくという考えではなく、異なる視点での「益」や、次の一手が見えている企業によるM&Aが優れた一手だと言えるでしょう。
出版業界の課題
出版業界の課題として、メジャーなものをいくつか取り上げます。
電子書籍の売上は上昇傾向です。発行済みの紙の書籍を電子書籍化していく、今後出版する書籍の電子書籍化を効率的に行う点が一つです。
2024年は物流問題に注目が集まった年ですが、書籍の流通においても同問題が業界の根底にあります。書店が減少する中、物流問題は書籍の販売数を維持する上で重要です。
動画やSNSに可処分時間を奪われている問題です。情報取得、娯楽において他メディア・媒体から無料で、より易しく情報を得られる時代になりました。なぜ書籍なのか?に答えられる業界へと発展が必要となるでしょう。
アメリカにおけるM&A事情
アメリカの出版業界はやや日本と異なり、大手5社が市場の約8割を持つと言われています。2020年、最大手のペンギン・ランダムハウスが大手5社の一角サイモン&シェスターの買収計画を発表しました。
2社間協議はまとまりましたが、米コロンビア地方裁判所が待ったをかける形で、このM&Aは破談となります。
そもそも、ペンギン・ランダムハウスも合併により生まれました。イギリスの出版社の中でも最大だったペンギン・ブックスが、アメリカの大手出版社であるランダムハウスと合併し生まれました。さらなる巨大化に対し、寡占化による著者サイドのデメリットを考え、今回の判決が出たと報道されています。
まとめ
出版業界では盛んにM&Aが行われています。出版業界が縮小していく中で多くの企業が生き残りをかけて工夫しています。今後も出版業界では多くのM&Aが実施されるでしょう。