本には版と刷という2つの言葉があり、本記事では版と刷の違いについて紹介します。

版と刷の違い

版と刷の違いを理解する上で、それぞれの意味から確認していきましょう。

版とは

版(はん)とは、本におけるバージョンのことです。本に何回修正や加筆が施されたのかを版の数字によって示します。版を確認することで、これまでの修正や加筆の回数を確認できるでしょう。

本が初めて出版されたときの版は初版(一版)と言います。その後、修正や加筆を施した場合は、次に印刷したものから二版です。さらに修正や加筆が行われれば、三版、四版と数字が増えていきます。

誤字を1箇所直した程度で印刷する場合、一般的に版は変えません。一版を第一版、二版を第二版と「第」を付けて呼ぶケースもあり、意味は同じです。

刷とは

刷(さつ)とは、これまでに本が印刷された回数を指します。
例として、最初に初版として3,000部を印刷したならば、この3,000部を第一刷と言います。初版が売れたために追加で2,000部を印刷したならば、これが第二刷です。さらに追加で印刷されるごとに第三刷、第四刷と数字が増えていきます。

つまり、版と刷は、印刷用データに修正等を加えると版が変わるため、二版・三版と数字が増え、印刷用データは以前のまま同一の版で追加印刷をすると、二刷・三刷と数字が増えていきます。
刷を「すり」と読むケースもあります。(会話の中で「いっさつ」を「一冊」と誤解しそうなケースでは、意識的に「いちずり」や「初刷・しょずり」と言うことがあります。)

重版と増刷の意味

似た用語で、重版と増刷という2つの言葉がよく使われます。それぞれの用語の意味や違いを解説します。

重版とは

重版とは、本の内容そのままに追加印刷・製本することです。
先程の版、刷の説明で言うところ、二刷を作ることを言います。さらに重版されれば、三刷・四刷と続きます。

出版業界を扱った有名な漫画「重版出来(じゅうはんしゅったい)」をご存知の方も多いと思います。この「重版出来」とは、版を変えず追加印刷・製本し、書店へ追加納入しました、との意味です。追加印刷が必要になるほど売れている人気の書籍であるアピールとして、帯などに「重版出来」と記載するケースもあります。

増刷とは

増刷とは、重版と同様、本の内容そのままに追加印刷・製本することです。

重版と改訂の違い

改訂とは、過去に出版された本の内容を大幅に変更・追記したことや、その新バージョンを指します。

改訂版の書籍は、タイトルに「改訂版」と付記されたり、タイトル自体が変更されたりして、新しい本として扱われることが一般的です。ISBNも打ち直す(新しい番号にする)ことが多いでしょう。
具体例として、過去に出版された本の内容に含まれるデータを最新のものに更新したり、時代変化に合わせて新しい章を追加した場合などが挙げられます。

版と刷の調べ方

手元に書籍があれば、その書籍の版と刷を確認してみましょう。
書籍の版と刷は、奥付に記載されています。奥付(おくづけ)とは、書籍の巻末にある書籍に関する情報をまとめたページを言います。この奥付に、大半の書籍では版と刷が表記されています。  
大半と言うのも、奥付に版や刷が記載されているのは出版業界における慣習であり、法的に義務があるわけではありません。そのため、海外の書籍などでは奥付がないケースも見かけます。

初版が貴重とされる理由とは

初版は限定品である故の価値が理由かと思います。増刷を重ね百万部が発行された書籍であっても、初版は数千部しか存在しないことが多いでしょう。

他にも、古い書籍の場合には、内容が修正・加筆されていない状態であることを貴重だと考えるためです。時代変化に伴い、表現がマイルドに修正されたり、言い回しを現代にあった表現に変えたりすることがあるため、変更前の作品である初版に価値を感じる方が多いのでしょう。

学問の世界でも初版本は重視されています。特に初版の第一刷の場合は印刷数が少ないため、希少価値がつく(または「プレミアがつく」)ことが多いです。現在ではベストセラー作品として知名度の高い作品であっても、初版の第一刷は印刷数がとても少ない場合があります。

一度に印刷される部数は?

新しく出版される本が初回に何部印刷されるのか特にルールはありません。人気作家で注目されている作品であれば、多くの部数が刷られるでしょうが、ニーズが見積もれないマニアックな作品であれば、部数は少なくなるでしょう。
これまで初版3,000部は一つの目安にされることが多かったです。しかし、本が売れない、書店数が減少する中、初版2,000部、1,000部のケースは増えています。

令和の現在、デビュー作で初版が5,000部であれば期待されていると言えるでしょう。  

オンデマンド印刷による新しい出版方法

オンデマンド印刷とは必要な部数だけ必要なタイミングで印刷する方法です。印刷用の版(刷版)が不要で、データさえあれば印刷できます。

オンデマンド印刷であれば、小ロット印刷にも対応できるのがメリットです。在庫を抱える必要がないため、在庫コストを抑える効果もあります。これからの出版方法としてオンデマンド印刷への期待は大きいです。
たとえば、注文を受けてからオンデマンド印刷で必要な分を印刷して販売するというビジネスモデルが可能になりました。実際にAmazonではPOD(プリント・オン・デマンド)サービスを提供しています。
AmazonのPODサービスでは、出版したい書籍のデータさえあれば、Amazonが本の印刷から販売まで代行してくれます。オンデマンド印刷では注文に応じて1部からでも印刷できるからです。このような変化に伴い、「刷」という考え方も変化のタイミングを迎えているかもしれません。
無駄なコストをカットして効率化を図るために、今後はオンデマンド印刷の重要性が高まるでしょう。

まとめ

版とは内容の修正や追記を行った回数のことです。一方、刷とはこれまでに印刷された回数を指します。版や刷の数字をチェックすることで、その本がどのように読まれてきたか(修正の経緯や増刷の回数)がわかるでしょう。これから本を買うときには、版や刷の数字に注目してみるのも面白いでしょう。