出版業界では返本率の高さが長年問題視されています。
返本率とはどういった数字なのでしょうか。本記事では返本率の意味や課題などを説明します。
返本率とは
返本率とは、販売委託制度によって流通している書籍のうち書店で実売されずに取次店へと返品された割合のことです。返本されてきた冊数 ÷ 委託販売した部数で計算されます。
日本では多くの書籍が販売委託制度のもと、出版社が取次を通して書店に書籍の販売を委託しています。
書店は定価で書籍を販売して、実売数に応じたマージンを受け取ります。そして、仮に書籍が売れ残ってしまった場合でも、書店は取次に自由に書籍を返品することができます。委託期間が終了した本も書店は自由に返品が可能です。
日本の書店の流通は上記のシステムで成立しており、返本率がとても重要になってきます。
出版社が受け取る売上は、流通部数 × 返本率を基準に計算をされていますので返本が多いと出版社の受け取る売上も、もちろん少なくなります。極端な話、返本率が100%だと出版社の売上は0になります。
つまり、返本率が高い状態というのは、書店で売れなかった書籍が出版社にどんどん返品されている状態で、流通をするための流通コストだけがかかっていて充分な売上がない、といった状態になります。
そのため出版社は返本率が少しでも低くなるような企画や戦略を考えます。
出版業界における返本率の現状
現在、日本の出版業界において返本率は平均して40%とされています。取次店を経由して全国の書店に配本された書籍のうち約4割が出版社へと返品されているのが現状です。返本率が高いと書店と取次店、出版社のすべての利益が減ります。そのため、返本率の高さは出版業界における大きな課題となっています。
返本率が高い理由としては、需要と供給がマッチしていない点が指摘されています。たとえば、書店が実際の販売能力以上に書籍を注文するケースです。書店は返本をする権利をもっていますので、注文をしても売れなかったら返本をすることで損はしません。
また、出版社が売れない本ばかりを書店に配本させようとするという意見もあります。これは書籍が売れなくても書店に並ぶことで喜ぶ著者がいるといった背景があります。
返本率の推移
実は日本の出版業界の返本率の高さは、ここ30年ほどあまり変化がありません。日本は委託販売と再販制度(書籍の定価が一定である制度)を取り入れているため、構造的にどうしても返本率は高くなるといわれています。
それでは、なぜ近年になって返本率の高さが特に問題視されているのでしょうか?
それは出版業界が衰退していることが理由としてあげられます。1990年代も返本率は40%近くあったのですが、1996年には出版業界は売上のピークを迎えていました。返本率が高くても、そもそもの売上の規模が大きかったので、そこまで気にする必要が無かったのです。しかし、そこからは出版業界の売上が落ち続けています。
たとえ返本率が高かったとしても、業界全体としての売上が高ければ問題は少ないですが、現状は業界全体の売上は落ち、返本率も高止まりしています。こういった事情から、現在の出版業界では返本率を下げることが大きな課題とされています。
返本率に対する今後の対策・課題
もちろん、これまでに返本率を下げるためにさまざまな取り組みが行われてきました。その1つが部分再販の導入です。部分再販とは、書店が仕入れる本の一部を再販制度から除外することであり、定価以外の価格で販売できます。部分再販を取り入れるケースは増えてきていて、書店は旬を過ぎた本を自由に値下げ可能になりました。値下げをして本を売り切ることができれば、返本率の改善につながります。
このように再販制度の緩和や見直しによって返本率を下げようとする試みも長く続けられてきています。再販制度の問題は数十年前から指摘され続けてきたことであり、廃止するべきではないかという声もあります。しかし、再販制度については度重なる議論が続けられてはいるものの、現在まで残っており今後も議論は続いていくでしょう。
また、返本率を下げるために取次から書店へむやみに書籍を注文しないように、といった通達も出ているようです。その結果、今までであれば書店へ書籍の売り込みを行えば二つ返事で何冊も注文をしてくれていたのが、今回は1冊でいいや、今回は注文無しで、といったケースも増えています。返本率を下げるために多くのタイトルが人の目に触れる機会を失っているといった見方もありますが、これも返本率を下げるためには仕方ないのかもしれません。
近年は出版社と直接契約をして買い切りで本を仕入れるケースも増えてきています。買い切りとは、返品ができない代わりに本の価格を自由に決められたり、取次を通して仕入れるよりもいい条件で仕入れることができたりする仕入れ方です。今後は再販制度にとらわれない方式で本を仕入れるケースが増えていくと考えられています。
まとめ
返本率とは流通をした書籍が書店から取次・出版社へと返品された割合のことです。出版業界が衰退の一途をたどっていることもあり、返本率の問題は早急に解決しなければいけません。返本率の課題を解決するためのさまざまな取り組みが今後も実施されていくでしょう。