出版業界特有の責任販売制(責任販売制度)。本記事では、この責任販売制の意味や目的、事例などを紹介します。
責任販売制とは
責任販売制とは、書店・取次店・出版社間の取引制度、または販売制度を言います。
大枠は返本率を下げる(無くす)ことを目的にし、検討した上で仕入れ数を決定するもので、返本率が下がったことに対する報奨金設定や、返本率が高かった場合のペナルティ設定などを設けます。
具体的な制度内容は出版社や書店、タイトルごとに様々で、一律的なルールではありません。
対義語とされるのが、日本の出版業界では主流の委託販売制です。委託販売制では、書店は売れなかった本を出版社に返品できます。
責任販売制では、書店側が仕入れ時に買い切りとするケース(返品できない)や、仕入れ時の掛け値を変え書店は利益率が良くなる一方、仕入れや返品に条件が設定され、条件が未達成の場合にはペナルティを受ける点などが特徴です。
責任販売制は法的なルールではなく、書店と出版社、取次の間で決めた取引条件を指します。繰り返しになりますが、そのため会社によって条件・ルールは大きく異なる点に注意が必要です。
責任販売制の目的
前項でも少し触れた通り、責任販売制は返本を少なくすることを目的として生まれました。出版業界は委託販売制に起因する返品率の高さが長年問題視されてきました。返品率が高いことは、返本時の輸送コストや手続きコストを大きくします。
返本率が高いということは、出版社や書店が儲からない(利益率の低下)ことへつながります。
責任販売制を採用することで、書店は本を売り切るよう努力します。ペナルティは受けたくないですし、報奨金を受け取りたいのは当然です。(伴って、書店の利益率は改善します。)
出版社や書店にとって責任販売制は魅力の多い制度ですが、デメリットとして書店の画一化や文化面への危惧を挙げる方々もいます。
責任販売制の仕組みで書店運営をすると、人気作家の作品や話題作を中心に取り扱うべきとの考えに至ります。それは書店毎のカラーが消え、どこも同じ店を量産することになるかもしれません。
新人作家やニッチジャンルの書籍は、仕入れづらくなり、出版の未来(エコシステム)を崩す可能性があると言われています。同時に書店内を歩いての新しい本との出会いを減らす流れになるかもしれません。
責任販売制の事例
責任販売性を取り入れた事例について以下で紹介します。
「35ブックス」の導入
2009年に出版社8社が新たな書籍の販売制度として「35ブックス」を導入しました。「35ブックス」は、書店のマージンを35%にし、その代わりに返本時の引取価格を35%にしました。書店の利益率を上げられる可能性と返本によるペナルティリスクの両面が特徴です。
水嶋ヒロ氏のKAGEROUの事例
水嶋ヒロ氏が2010年に出版したKAGEROUは責任販売制を採用しました。当時、ポプラ社は「KAGEROU」でのみ責任販売制を採用し、話題になりました。責任販売制では売れ残りが出ると書店は損失を抱えることになりますが、実際のところは売り切れが続出し、累計部数は68万部を超えました。
小学館の「ホームメディカ」の事例
小学館は2008年に家庭医学大辞典の「ホームメディカ」について、責任販売制と委託販売制のいずれかを選べるようにしました。「ホームメディカ」には取引条件を識別できるRFタグが装着されています。RFタグにより、返品時に取引条件の識別ができる仕組みです。
責任販売制になると返本はできなくなる?
ここまででご紹介の通り、責任販売制であっても返本できるケースはあります。
個々の契約次第という説明になりますが、買い切りであれば返本できず、ペナルティを支払うことで返本可能となるなど様々です。
返本率の話題で同時に語られることの多い再販制度、非再販制度にも少し触れます。
再販制度下では、書店は出版社指定の定価で販売しなければなりません。割引はできません。近年はこの再販制度の緩和や廃止が検討されていて、法律が改正される可能性もあります。再販制度が緩和されれば、売れ残った本を安値で販売することが可能です。再販制度の問題が解決できれば、返本を減らせる可能性があるため活発に議論されています。
責任販売制と販売価格の設定権は独立して考えず、セットで考えていく流れになるでしょう。
まとめ
責任販売制は、仕入れた本を売り切ることで、書店の利益率を改善する制度です。
一方、売れ残りが多くできるとペナルティが課されます。物流2025年問題も相まって、返本率の問題は注目されています。解決案の一つとして責任販売制のあり方が議論されています。
