翻訳家や翻訳したい作品がある方が、出版社に翻訳企画を持ち込むケースを前提にその方法や注意点を記載しました。事前にしっかりと準備をした上で出版社に持ち込みをすることが大切です。

本記事では一般的な流れから翻訳企画が不採用だった場合の別の選択肢についてまで紹介します。

企画持ち込みから出版までの流れ

翻訳企画を出版社に持ち込んでから出版されるまでの流れは以下の通りです。

  1. 翻訳対象となる原書を決める
  2. 企画書をまとめる
  3. 出版社に持ち込む、契約
  4. 翻訳、編集をする
  5. 組版、印刷製本を行い販売する

まず初めに翻訳対象となる原作著書を決める必要があります。言語や分野を決めた上で、需要があり売れそうな書籍を探すことが大切です。

次に翻訳企画を出版社に持ち込む際には企画書を作成して提出します。企画書には原書に関する情報や推薦理由、翻訳権について記載するのが一般的です。それ以外にも、原書の概要や試訳した文章なども含めておくと、出版社が意思決定しやすくなります。

出版社に持ち込むと、企画を検討しOKとなれば、原作著書について版権が空いているか確認します。版権(翻訳出版権)とは、著作物を翻訳して販売できる権利のことです。対象となる原書の出版権を持つ海外の出版社などと交渉します。さまざまな理由から版権が空いていないケースがあるため注意しましょう。

版権が空いていて、原書の版元と交渉がまとまれば、実際に翻訳を始めます。翻訳、編集を終えた後は、組版・印刷製本して販売するという流れです。(原作著者のチェックを経る場合もあります。)

翻訳物の出版社への持ち込みを成功させるには、原書の選び方や企画書の作成の仕方などが重要になります。

原書の選び方

翻訳する対象となる原書を選ぶ際には、以下の2点について定めることが大切です。

  • 言語
  • 分野・業界

言語とは、たとえば「英語→日本語」、「ドイツ語→日本語」など原書がどんな言語で書かれていて、どんな言語に翻訳するのかを定めることです。基本的に外国語から日本語への翻訳が前提となるでしょう。

翻訳する対象を決める際には分野・業界を定めることも重要になります。たとえば、医学や工学、会社経営、小説など幅広い分野・業界があります。自身が翻訳しやすくて、なおかつ需要の高い分野・業界を選ぶことが大切です。

翻訳をする対象となる書籍を具体的に選定する際には以下のポイントを意識しましょう。

  • 他国(他言語)で売れている書籍を調べる
  • 他言語で翻訳がされている書籍を調べる
  • 書評やレビューなどをチェックする
  • 自分が興味のある書籍を選ぶ

他国(他言語)で売れている書籍は需要が高いため、翻訳企画をまとめやすくなります。また、多くの他言語に翻訳されている書籍は国際的に評価されているため、日本語に翻訳する価値があるとアピールしやすいです。

書籍やレビューなどをチェックしてみることもおすすめします。実際に原書で読んだ人の感想を確認してみましょう。

また、自身が興味のある書籍を選ぶことも大切です。興味のない書籍を翻訳するのはモチベーションが上がらず、翻訳した文章の質も低下する可能性があります。

企画書のまとめ方

翻訳の企画書をまとめる際には以下の事項を含めておきましょう。

  • 原書タイトル
  • 原書作者名
  • 原書版元
  • 仮の邦題
  • 翻訳者名(持ち込み者名)
  • 翻訳者自己紹介
  • 推薦理由
  • 翻訳権について

上記はあくまでも企画書に含めるべき最低限の内容です。

推薦理由には、売れる理由や中身が優れている点、他国での販売データ、評価などを記載しておきましょう。翻訳権については、確認が済んでいるのであれば情報を記載しておきます。

上記以外には原書の概要を記載しておくことをおすすめします。実際に出版社が意思決定するまでに概要の提出が必要です。原書の内容を5,000~8,000文字程度に要約したものを提出します。(どの程度の文字量でまとめて欲しいかは出版社により異なります。ここでの文字数は一般的、平均の量であるため、送付先出版社に相談すると良いでしょう。)

さらに、試訳を用意しておくと意思決定の判断材料に加えることができるため、準備しておきましょう。(初回連絡時に試訳が含まれることを嫌がる出版社もあるため、注意が必要です。)

実績がない場合:翻訳スキルの説明

プロフィールや試訳だけでは翻訳スキルのアピールが不足する場合は、別に翻訳スキルの説明を行います。たとえば、英語関連の資格や過去の学歴、海外への滞在歴などをアピールしましょう。過去に自身で翻訳した作品があれば、企画書に添付して提出することをおすすめします。

企画の持ち込み先

企画の持ち込み先としては、アメリアへの応募、あるいは翻訳書に強い出版社への持ち込みがおすすめです。企画の持ち込み先について詳しく解説します。

アメリアへの応募

アメリアとは翻訳者と翻訳会社・翻訳関連企業をつなぐプラットフォームです。アメリアの会員になることで、翻訳関連の求人情報の検索や応募ができます。また、自身で出版社に対して企画の持ち込みをアメリア上で行うことも可能です。翻訳者を求める出版社が多数登録しているため、翻訳の企画書の持ち込み先を探すのに便利で、利用できます。

翻訳書に強い出版社

翻訳書の出版に強い出版社であれば、企画を持ち込んで採用される可能性があります。ただし、直接出版社に企画を持ち込んでも通常は応答がありません。そこで、紹介あるいは関係性のある編集者を経由して持ち込みをしましょう。

一般的な方法としては、翻訳講座を受講して講師と関係を築き、師弟関係をベースにしてつないでもらうことが可能です。あるいは、書籍翻訳に強い翻訳会社で社員・アルバイトとして働いて実績を積んだ上で、業界内でのつながりを作っていくと、企画の持ち込みのためのコネを作れます。

持ち込みが不採用だった場合の他の方法

出版社への翻訳企画の持ち込みに失敗した場合は、自費出版という選択肢があります。以下では自費出版や電子書籍出版について詳しく紹介します。

自費出版

自費出版であれば、自由に書籍の出版が可能です。商業的にあまり需要のない本であっても、自費出版であれば自身で費用を負担することで書籍を印刷して販売できます。

自費出版をする際には、出版社や印刷会社などのサポートを受けるのが一般的です。自費出版に対応したサービスを提供する出版社や印刷会社を探して契約をします。契約後は、自身で翻訳本の文章を作成し、校正作業を行いましょう。翻訳権の取得、製本や印刷、販売などは出版社側で対応してくれるケースが多いです。(印刷会社の多くは翻訳権取得をサポートしていません。)

ただし、自費出版のサポートでどの範囲の業務まで対応してくれるのかは、それぞれのサービスごとに大きく異なります。中には企画を考える段階からサポートを行い、プロによる校正やデザインのサービスまで提供するサービスもあります。

自費出版のサービスを利用して翻訳本を出す場合は、料金を支払わなければいけません。依頼先や部数、本の使用、書店流通の有無などにより料金は大きく変わります。

電子書籍出版

紙の書籍を自費出版する方法以外に、電子書籍出版という選択肢があります。電子書籍を作成し、電子書籍販売媒体(配信スタンド)と契約して、電子書籍販売サイト上で自身が作成した電子書籍を販売できます。

電子書籍出版の場合は、出版社などを経由せずに直接電子書籍を販売することも可能です。ただし、翻訳権の取得が個人では非常に難しい点、本の校正やデザインなどはすべて自分で行う必要がある点に注意です。また、出版社などの自費出版サービスの中には、書店への流通に加えて電子書籍出版にまで対応するサービスが多いです。

電子書籍出版の場合は本の印刷費用や用紙代などを節約できます。ただし、本の実物は存在せず、実店舗での販売はできません。