出版業界は不況が続き、倒産件数も高止まりしています。それでは、出版社がこれからも次々潰れるという噂は本当なのでしょうか。本記事では出版業界の現状と将来性について紹介します。

出版業界の現状

出版業界の現状は右肩下がりの状態です。出版不況は長期化し、出版業界の総売上高は右肩下がりになっています。また、出版社の数も減り続けているのが状況です。

2001年には出版業界の総売上高が3.27兆円あったのが、2020年には1.62兆円になりました。19年間で総売上がほぼ半分にまで減少したのです。

倒産件数の推移

出版社の倒産件数については、2009年には年間で72件でした。そこから倒産件数は減り、2018年に倒産した出版社は22件になりました。(参考:東京商工リサーチ

以後は同水準で推移しています。2024年は雑誌の休刊が多い一年でした。このため、休刊に伴う売上減や取引先企業への影響が2025年には目に見えて発生してくるでしょう。

東商リサーチや帝国データバンク等、各社集計・公表する倒産の定義に差分がありますが、注意すべき点は一定額以上の負債を抱えた倒産が集計対象であることです。
出版社は小規模零細が多いこともあり、倒産ではなく廃業が多いことも踏まえて、ここまでの数字を見る必要があります。

(事業が成立せず倒産ではなく、会社をたたみ精算する数も、業界の現状を把握するうえで重要との意味です。)

出版不況の理由

なぜ出版不況が続いているのか、理由として考えられる要素を紹介します。

活字離れ

テレビやゲーム、ビデオなどが普及して、90年代頃から出版不況が危惧されるようになりました。2000年代になるとインターネットが一般家庭に普及し、YouTubeなど動画サービスが増えたことで日本人の多趣味化が促進されました。さまざまな娯楽にあふれているため、わざわざ本を読もうとする人が減り、活字離れが進んでいるとされています。

電子書籍・アプリの普及

出版不況といっても、実際には紙の本の売上が減り続けているのが現状です。一方、電子書籍については電子コミックを中心に売上が増加傾向にあります。電子書籍のアプリも普及しており、紙本以外の読み方が増えたことが出版不況の理由の1つとされているのです。

所得の低下

失われた30年と呼ばれる不況が続いており、日本人の所得は低下しています。書籍の価格は昔と比べると高くなっていて、日本人の所得は増えていないため、購入する余裕が減ったとも言えるでしょう。

(文庫本の価格がよく例に出されますが、20年前は約600円、現在は700円台なかば程度でしょうか。)

本が売れても倒産するのはなぜ?

本が売れたとしても出版社が倒産するケースはあります。なぜ本が売れても倒産することになるのか、理由を説明します。

返品による負担

日本の出版業界では委託販売制度が主流となっています。書店に本を委託販売し、一定期間が過ぎて売れなかった本は書店から出版社に返品される仕組みです。

日本の委託販売制度における返品率は4割程度とされています。多くの本が返品されるため、返品による負担が大きく、出版社が倒産する大きな原因とされています。

すぐに資金化できないため

例えば、ベストセラーになるほど本が売れたとしても、すぐに資金(売上代金)が入ってくるわけではありません。出版業界では出版社から出版取次、出版取次から書店という流れで本が流通します。そして、書店で本が売れると、出版社に売上が戻ってくるという流れです。実際に本が売れてから出版社に売上が戻ってくるまで半年以上かかるケースも珍しくありません。

ヒット作が出たとしても、出版社に売上が入るまでにタイムラグがあります。体力のない中小出版社の場合は、売上が戻ってくるまで経営を維持できずに資金繰りに窮する場合があります。

※実際には取次がファイナンスの役割を担う場合も多く(人気作が出た場合においては良好な作用をします。)、その結果、返品過多による資金繰りあっかにも繋がるという複雑な関係性です。

倒産した有名出版社

過去には大きな出版社が倒産した事例があります。

たとえば、枻出版社はコロナ禍で倒産しました。枻出版社はファッション雑誌の「Lightning」などを出版していて、2017年3月期には売上高が102億円ありました。しかし、2020年3月期には売上が55億円まで落ち込み、2021年に倒産(民事再生法の適用を申請)しました。

2023年の3月にはマキノ出版が倒産しました。マキノ出版は健康雑誌の壮快などで知られています。コロナ禍で売上が落ち込み、最終的に倒産(民事再生法適用を申請)しました。

出版業界の将来性

出版業界は、特に紙の分野でこれからも右肩下がりの状況が続くと予想されています。書籍の売上が減り続けているからです。趣味の多様化が進んでおり、紙の本の売上が大きく改善される見込みがありません。出版社も含めて書店の数も減っていくでしょう。ただし、電子書籍の売上は伸びているため、新たなビジネスモデルを打ち出すことで生き残る出版社が出てくる可能性はあります。

倒産を防ぐためのM&A

出版社が倒産を防ぐための解決策としてM&Aを実施するケースは珍しくありません。M&Aとは、第三者に会社を譲渡することです。他社に株式や事業を譲渡して他の経営者が承継します。

たとえば、教科書や教材を出版していた学校図書は数研出版とM&Aを行い子会社になりました。数研出版も教科書や教材の出版を主に行っていたため、事業基盤の拡大を目的に学校図書の事業を譲り受けたのです。

生活実用書やコミック、小説などを出版していた日本文芸社は、電子書籍取次であるメディアドゥとM&Aをしました。現在、日本文芸社はメディアドゥの子会社になっています。

まとめ

出版業界全体で売上規模は縮小傾向で、出版社数も減少傾向です。
将来性が良いとは言いづらいでしょう。倒産を避けるためのM&Aや新しいビジネスモデルへの挑戦を進める企業も出てきています。