出版業界は衰退すると危惧されています。この先、10年後にどうなっていくのか不安になる人もいるのではないでしょうか。本記事では出版業界の10年後について、今後の動向や課題を紹介します。

出版業界の現状

出版業界の売上がピークだったのは1996~1997年頃のことであり、そこから売上が右肩下がりを続けています。電子書籍が登場して、売上は横ばいになったのですが、紙の書籍や雑誌の売上が落ち続けているのが現状です。売上が右肩下がりの状態を続けており、出版業界は衰退しています。

出版業界が衰退するわけは?

出版業界が衰退した原因はたくさんあります。出版業界を衰退に追い込んだ理由をそれぞれ紹介しましょう。

活字離れ

全年代において活字離れが進んでいます。活字を読む機会が全年代で少なくなっています。そのため、紙の書籍や雑誌の売上が低迷しています。従来、活字に慣れ親しんできた世代においても活字を敬遠する傾向が出てきて、書籍の売上に大きく影響しています。

趣味の多様化

動画サイトの登場やゲームなど趣味が多様化していて、読書人口が減っています。特に現在はスマホで気軽に動画やゲームを楽しめるようになりました。読書以外にも趣味の選択肢が増えたため、読書をする人が減ってしまい、書籍・雑誌の売上低迷の原因となっています。

可処分時間の奪い合いとも表現される状況です。

所得の低下

不景気の時代が続いていて所得が低下し、本の購入をためらう人が増えています。趣味に使えるお金が減っていて、節約志向が高まっており、本の購入を控えるようになりました。また、中古書店やフリマアプリが流行っており、中古本の購入が増えたことも、出版業界の衰退の原因といえます。

電子書籍の普及

電子書籍が普及して紙本からの代替が進んでいます。電子書籍はいつでもどこでも購入できて、便利な機能がたくさんあるため、紙本から乗り換える人が増えています。電子書籍の売上が伸びたことで、紙本の売上が低迷しています。

Amazonによる出版業界への影響

Amazonは出版社から直接本を仕入れ、消費者に販売するケースが増えています。Amazonの登場によって、書店や取次なしで本が流通するルートが確立しました。

そのため、実店舗を構える書店にとっては厳しい状況が続いており、書店数の減少にも現れています。

回りまわって書籍の売り場は減少し続ける状況だと言えるでしょう。

10年後の出版業界はどうなる?

出版業界は10年後どうなるのか、出版業界や紙本市場、電子書籍市場の10年後を予想します。

出版業界の10年後

出版業界は10年後に向け、穏やかな右肩下がりが続くと予想できます。活字離れが進み、読書人口が減っていて、書籍の売上が落ち続けているからです。また、Amazonの登場によって、特に書店と取次は厳しい状況が続くでしょう。

電子書籍の利用者が増えることを否定する意図はありませんが、電子書籍の普及に伴い、紙の書籍は売れにくくなり、1冊あたりコストは上昇を続けています。

このため、物価高も相まって、書籍定価の上昇が起きるでしょう。

コストが上がり、売上が下がる環境下においては、AIを筆頭に新しい技術の活用が欠かせません。人間が行っていた作業をシステム等に代替させ、品質を維持しながら制作コストを下げていく取り組みが重要となるでしょう。

紙本市場の10年後

近年、紙の雑誌は売上が落ちているのですが、紙の書籍の売上は横ばいが続いています。そのため、今後も紙の書籍については一定の需要があり、なくなることはないでしょう。ただし、電子書籍が紙の書籍の代替として普及しているため、紙本市場は10年後も右肩下がりが続くと予想できます。

物流・運送業の2024年問題も紙の書籍においては強い影響を受けるでしょう。

書籍が希望通り配本できない、返本を回収する仕組みが維持できない問題が近く起きても不思議ではありません。

電子書籍市場の10年後

電子書籍は今後も成長が期待される分野です。ただし、電子書籍の売上だけで出版業界全体に大きな変化をもたらすとは、考えにくいでしょう。出版業界は根本的な課題を解決しない限り、衰退を続けると予想できます。

アニメ・コミックは出版業界を救済する?

近年は鬼滅の刃や呪術廻戦など大ヒット作品が登場して、紙の漫画や電子コミックの売れ行きが凄いです。アニメ化に成功すれば、多くの人に注目されて、売上が伸びます。

これら人気作品が未来永劫売れ続けることは現実的ではありません。しかし、今後も定期的にヒット作品が登場することは期待できます。アニメやコミックのヒット作品が出ることで、出版業界の右肩下がりの現状を食い止められる可能性はあるでしょう。

今後の課題

出版業界における今後の課題について紹介します。

電子書籍化・ネット販売への対応

電子書籍の需要が高まっているため、電子書籍化を進め、ネット販売にも対応することが今後の課題とされています。

たとえば、既存の紙の書籍を電子書籍化することで、売上が上がる可能性はあるでしょう。新しく出る書籍についても、電子書籍化への対応をすることで、売上向上を期待できます。

また、紙の書籍や電子書籍のネット販売への対応も重要です。Amazonだけではなく、さまざまなサイトで販売できるようにすれば、売れる可能性を高められます。

クロスメディアの検討

クロスメディアを検討することで書籍の売上を伸ばせる可能性があります。クロスメディアとはテレビやWeb、新聞などさまざまな媒体を組み合わせたマーケティング手法です。

たとえば、紙の雑誌からWebサイトへ誘導して、別の商品の販売に結びつけるといったケースがあります。YouTubeで漫画の名シーンを編集した動画を投稿して、そこから電子コミックの販売サイトへ誘導して購入に結びつけるといった事例もあります。

クロスメディアを活用することで、従来とは異なる経由で書籍の販売に結びつけることができて、出版業界の売上アップを期待できます。

オーディオブックの検討

アメリカではオーディオブックの売上が上昇傾向にあり、出版業界を支える存在になっています。日本でもオーディオブックのように従来とは異なる方法で書籍を販売すれば、出版業界の衰退を防げるかもしれません。たとえば、既存の書籍をオーディオブック化して、上手くプロモーションをすることでヒットする可能性があります。

恐らく、読み上げソフトの高性能化、作業の自動化が進むことがカギになるのではないでしょうか。

精度高い販売予測、返本率の減少と本との出会いの確保

高い返本率の問題を解消すると同時に、書店の売上を下げない取り組みが必要です。

また実店舗ならではの、本との偶然の出会いをどうやって守り、作り出していくかは重要な課題です。

売上ランキング上位の本だけが並ぶ、画一的な書店が増えることを否定しませんが、専門性や独自性を大切にした書店に光があたることも重要となるでしょう。

利益率の高い構造へのシフト

書籍の在庫保管、売れ残り在庫、配送距離、これらのいくつかに手を加えることで出版業の利益率に変化が起こせる可能性があります。

印刷製本の技術革新により起こせるのか、ソフトウエアによる技術で起こせるのか、はたまた自動運転などの他領域が重要になるのか、注視が必要です。

まとめ

出版業界は今のままでは10年後も衰退している状況は変わらないでしょう。今のうちから課題を正しく認識して対処することが求められます。そうすれば、10年後に出版業界の状況が好転する可能性はあるでしょう。